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【シリーズ】SK本舗ユーザーのリレーコラム #03「深遠なる銃器模型の世界」(SAIMECS永田)

【シリーズ】SK本舗ユーザーのリレーコラム #03「深遠なる銃器模型の世界」(SAIMECS永田)

SK本舗ユーザーの皆様によるリレーコラムシリーズ第3弾は、3Dプリンターで本物と見紛うリアルな銃器模型を制作しているSAIMECSの永田さんです。設計や素材選びの注意点など、汎用性の高い貴重なノウハウを公開いただきました。

ごあいさつ

SAIMECS(@saimecs )の中の人の一人、ダメンジニアこと永田です。

SK本舗様からのご依頼により、僭越ながら、私が個人的な趣味で3Dプリンタにて制作している銃器類の模型について、その制作過程などを(苦労話を混ぜ込みながら)ご紹介させて頂くことになりました。

基本的なモデリングや機材運用、サポートの付け方や洗浄方法などについては多くの情報がすでに紹介されていますので、ここでは特に概念的なこと、あまり他所では見かけない私なりの手法についてとなります。

まず、使用している3DCADと3Dプリンタについて。いずれも、私の本業である機械設計と試作を行うために導入したものですが、CADはSolidworks、プリンタについてはMarkforged MarkII、Formlabs Form2を最初に導入して以来3年ほど使い続けておりましたが、FDM機についてはその後その他に2台追加しております。

光造形機についてはForm2を使って模型を作るようになってから、Photon、Shuffle XLを追加導入し現在に至っております。

現状、模型の製作についてはShuffle XL(2台)が主部品、Photonが細かな部品、FDM機が強度の必要な部品の製造をそれぞれ担っております。

Form2については諸般の事情により、特殊な樹脂で部品を作る場合のみ使用しております。

今回は特にShuffle XLにて作っている主部品についてのお話となりますので、よろしくお付き合い頂けましたら幸いです。

3Dプリンタで作っている作品

主に1/3と1/4スケールの銃器模型を作っています。

ぶっちゃけ3Dプリンターで銃を作っているわけでして、幼い娘が保育園で「パパはプリンタで銃作ってるのー!」と無邪気に吹聴する度にいつ通報されるのかとヒヤヒヤしておりますが、なぜ銃を?と問われれば理由はいくつかあります。

・このスケールの銃器モデルはあまり存在していないようであるから。
・40cm-60cmサイズのお人形に持たせて遊ぶという需要と市場が拡大傾向にあるから。
・概ねShuffle XLもしくはForm2のベッドサイズで収まるから。
・やってて楽しいから。

最後の一つが最大の理由なのは推して知るべし、ですが、とにかく、ひょんなことがきっかけで銃の模型を作るようになりました。

しかしながら、これが私が個人的に飾って満足するだけのものなら話は難しくないのですが、需要に応える形でモノを作る以上、作ったものを販売しなくてはなりません。

さらに販売してお金をいただくとなれば、実にさまざまなハードルが現れます。

しかも、いわゆるフィギュアのように棚に飾っておくだけのものではないわけでして、パッと思いつくだけでも、

・人と人形の手が常に触れるため「それなりの強度」が必要。
・リアルな人形に持たせても違和感のない「リアルさ精密さ」が必要。
・お人形がアクションフィギュアであり人に近いポーズが取れるため、表現の幅を持たせるために銃にも「アクション(可動)」があるべき。

といったことが挙げられます。一見、模型玩具としては普通のことと思われるかもしれませんが、これがレジンを使った手作りの模型となると話は全く変わってくるんです。

ただ、最後の1つに関しては私が無謀にも付加価値として提案したらバカウケしてしまい、引くに引けなくなってしまったウチの製品の特徴なのでありますが・・・。

いずれにしても、3Dプリンタの性能や光造形機で使われるUVレジンの脆さを考えると、これはなかなか厳しいハードルでした。

ただ、ポイントは「でした」と過去形になっているところ。現在までに300本を超える製品を販売しておりますが、幸いなことにどうやらこれらのハードルをクリアできているようなのです。

実際、輸送事故とユーザー様による落下事故以外、クレームはほぼありません。これには自分が一番驚いております。

もちろん、私の力だけではなく、取り扱い説明書にて注意喚起を行っていますし、そもそもユーザー様のレジン造形物に対するリテラシーの高さが一つの理由ではないかと考えております。

お人形そのものがわりとデリケートな製品であるため、取り扱いにはそれなりに神経を使ってくださるかたが多いようです。

とはいえ、こうして「遊べる模型」を実現するためにはそれなりの苦労があったわけです。その苦労とそこから得たノウハウなど、全てを書こうとすると一冊の本になってしまいそうなので、今回はそのなかからいくつかのポイントを要点を絞ってご紹介していきたいと思います。

遊べる模型を作るのに重要な3つのファクター

まず、上図に示した3つのファクターはそれぞれが密接に関係し合っていることに注目してください。

たとえば、設計時にリアルさや可動性を求めるために部品の肉厚を薄くする必要がある場合、素材の硬さや靱性に大きく依存することになります。また、設計時にディテールをどんなに作り込んでも、機材にそれを再現する解像度と精度が無くてはそれは意味が無くなってしまいますし、また、素材自体の精度によっても表現できるディテールに限界が出てきます。小さな模型において、可動ギミックを盛り込む場合、強度の他に精度が非常に重要になります。素材の特性で太ったり、機材の性能で誤差や歪みが生じたりすることが往々にして起こりますので、そのクセや特性について十分に把握したうえで設計に反映する必要もあるわけです。

これら3つの要素を総合的にバランス良く高めていく努力が必要とされます。

私の場合、見栄えの良い設計を実現するために、素材については何十種類というレジンを試しております。

多様なレジンを使わなくてはならないという点において、私が最初に購入したForm2は絶対的に不利でした。純正レジンでは満足な強度とディテールの確保を両立できなかったため、他のレジンを試そうにもForm2で使えるレジンは極めて選択肢が少なかったのです。

これがLCD機になると実に多種多様なレジンが市場に出回っていて、しかも安価な場合がほとんどです。そこでレジンの研究のためだけにPhotonを導入したわけです。

SLA機に対してLCD機の素材選択の自由度と、ディテールの再現度は衝撃的でした。

少なくとも私の用途には最適と言っても過言ではなかったわけです。

しかし、PhotonではForm2で作っていた大きな部品が出力できない・・・。

はい、ここでご想像のとおりShuffle XLを導入するわけです。他に選択肢は無かったですね。

良い機材を手に入れて、良い素材も選択できれば、あとは設計するヤツの腕次第になってきます。素材の進化とともに、私の作る銃もどんどん無茶な設計になっていきますが、常に「遊べる模型」は実現できていると思っています。

その過程はツイッターのほうで追いかけることができますので、よろしかったら過去のツイート(@saimecs)をほじくり返してみてください。

設計について

設計は基本的に実物大のモデルガンなどを採寸してモデリングします。

写真などから器用にモデリングをする方もいらっしゃいますが、細かいところまで作り込もうと思うと、二次元の写真からでは知り得ない情報がどうしても生じます。

また、可動ギミックを盛り込む際に、どこの部品とどこの部品が連携して、どの範囲で動くなどの情報が把握しやすくなりますし、また動作の様子などはネットに上がっている動画などでも確認します。

実銃の取り扱い説明書が公開されているものについては、それらも参考にしながら設計に反映させます。

実銃と全く同じ形の部品を作って、それを3Dプリンタで出力すれば超絶精密な模型が出来上がると思われるかもしれません。が、そんなことは1/3スケールというサイズと素材強度が許してくれません。

なにせ、人形に持たせたり、それっぽく可動しなくてはならないのですから。

実際の設計に取り掛かる前にかなりの時間を自分の頭の中で設計の構想に費やします。

強度を考えながら内部の構造を簡略化したり、1つの部品として纏めてしまえるものは可能な限り纏めて合理化と強度を確保することをイメージしてある程度決めてしまってから、個々の部品を実際のモデルガンの寸法でモデリングしていきます。

また、どうしても薄くなってしまう箇所が出来てしまう部品については、CADの解析機能を使いながら薄さの調整や補強で妥協点をみつけます。

最終的にはCAD上で全ての部品を組み上げて、動作の確認や部品の干渉をチェックを行います。

また、各部品の接合部については、レジンや機材の特性を考慮した公差を念頭に寸法を決める必要もあります。

後々レジンや機材が変更になった場合に、寸法変更が容易になるよう考えながらモデリングをするよう心がけていますが、なかなか難しいものです・・・。(ダメンジニアゆえに)

試作を繰り返す原因の殆どが、これに起因していると言っても過言ではないかもしれません。

さて、以上が私が製品を設計する際の大雑把なやりかたなのですが、3Dプリンタで出力するにあたってモデリングの際に気を付けるべきことなどがあります。

これも色々ありすぎて全てを列挙することが難しいのですが、私が特に考慮するのが出力時における各部品の向きです。

具体的には、

・サポートを付ける面はなるべく完成時に表面にならない部分にする
・出力時には最小限のサポートで出力できる方向を考える
・場合によっては造形痕を銃の表面のヘアラインとして見れるよう水平に置く

これらは実際に印刷時にどのようにレジンが積層されていくのかを想像しながら考えると答えはわりと簡単に出てきます。たぶん。

銃の部品については長い部品が多く、それらは経験的に斜めに傾けて出力すると歪む可能性が高いのでどうしても垂直に立てて出力してしまいます。(FEPの傷みが早くなりますが、それは諦めて製品コストに・・・)

その場合、液面に対して水平方向の面、というのが部品の一部にどうしても出来てしまい、そこにレジンが溜まって所定の寸法が出ない場合があります。

仕上げの際にヤスリで削れる場合はそれでもよいのですが、写真のような例えば小さな角穴の場合には修正が難しくなります。

こういう場合には、あらかじめ斜めに溝などを作ってレジンが逃げるように設計しておきます。

また、サポートについては基本的にはスライサーソフト上で点付けを行いますが、部品の形状や、出力方向の折り合い、歪みや造形痕を考慮した場合、CAD上で変則的なサポートを予め付けてしまうこともあります。

また、細くて長い部品や形状変化が激しい部品などは、細長い部品同士をサポートで接合させお互いを補強するような状態で出力することもあります。

素材について

光造形プリンタにおける素材とはUVレジンのことになるわけですが、今のところ「万能」と呼べるUVレジンにはめぐり会えておりません

結論から言ってしまうと、今現在、私は性状の異なるレジンを混合させたものをメインの部品出力に使っています。

また、強度の必要な部品については、ディテールは若干犠牲になりますが高靱性レジンを使用します。これについても、形状や使用目的に応じて数種類を使い分けます。

照準器のキャップを留めているバンド部品などはフレキシブルレジンを使ったりもします。

使用するレジンのカラーバリエーションについては、銃本体は基本的に黒色レジンで、銃の上に載せる光学照準器や透明なマガジンなどは透明レジンを使います。また銃本体を黒以外で仕上げる場合にはグレーだったり肌色だったりもします。

そんなわけで通常使用するレジンだけでも十数種類あったりして、銃によっては5~6種類のレジンで構成されるものも存在しています。

しかし、どんなにレジンの性能が良くなったとはいえ、特に小さな部品となってくるとガンプラ等に使われているようなPSやABSの強度にはまだまだ及びません。

可動部分のリンケージ部品など、絶対的な強度が必要な場合にはFDMプリンタを使う場合もあります。

フィラメントにしても種類が豊富になってきていますので、UVレジンと同様に使用目的に応じて素材の吟味とテストは常日頃から欠かせません。

また、ライフルやショットガンなど、細くてとても長いモノについてはレジンだけではやはり強度に不安が残ります。

幸いにして、多くの銃は長いバレルもしくはシェルケースが存在するため、それらをアルミや、スチロール樹脂の部品を用いることでモデル全体の強度を補強します。

人形が保持できる重量には限界がありますので、総重量とバランスにも気を使わねばならないため、むやみやたらに金属部品が使えないという問題はありますが・・・。

これはコストの関係でまだ実際の製品に使ってはいないのですが、これから作る大型のライフルや、サブマシンガンの細いアームのストックなどについては、MarkforgedのFDMでカーボンやケブラーなどのワイヤーを編み込んだ部品を採用していくことになりそうです。

ダラダラと書きなぐってしまいましたが、飾っておくだけのフィギュアと違い、遊べる銃模型の制作には素材選択の重要度が非常に高いことをご理解頂ければと思います。

変形合体ロボや、可動フィギュアを遊べるレベルで制作しようと思ったら、恐らく私と同じ苦労をされるのではないでしょうか。

機材について

ここまで書いた時点で結論が出てしまっているのですが、今のところShuffle XLを凌ぐコスパの機材は存在しないのではないかと思われます。2台目購入がそれを証明しております。むしろ他があれば教えてください。(気になっている機械はいくつかありますが)

先にも書きましたが、銃の部品は長いモノが多く、歪みを避けるために垂直置きで出力しています。
長いモノを綺麗に出力するためにはZ軸の剛性が極めて重要となりますが、出力範囲が大きいにも関わらず、このZ軸の剛性についてShuffle XLは低価格機にあるまじき素晴らしい性能を有しています。

ランニングコストについても、Form2と比較するのがバカバカしくなるほどの差が出ています。

私の場合、長尺部品の垂直出力でFEPの傷みが早いとはいえ、FEPの交換サイクルはForm2のオレンジタンクより遥かに長いですし、消耗品であるフィルムの価格も(XLの場合若干高めですが)非常に安い。LCDスクリーンも消耗品ですが、私の場合かなりの使用頻度であるにも関わらず長時間使えております。(半年ほぼ毎日連続使用で1回交換)

機材に合わせた設計を、機材に合わせた素材選びを・・・と本来ならなるのでしょうが、XLの安定性とレジンの雑食性が凄まじいので、レジンの特性さえ把握して適切な設定ができるならば、ほぼ何の苦労もなく量産体制に入れます。

敢えて難を挙げるとすれば、電源周りの脆弱さとか、制御系がバグることがあるとか、たまに修理が必要になるとか、低価格機であることに起因するトラブルがあるため、ユーザー側である程度対応できるスキルが必要であること、ぐらいですかね。

機能的にはあったらいいなーという機能はいくつかありますが、この価格でそれを求めるのも酷というものですし、逆にそういう機能が無いことで安定している、とも見受けられます。
解像度については無印Shuffleぐらいの解像度になると有難いですね。

機材運用のノウハウについてはSK本舗様からサポートも受けられますし、他に詳しい方々が大勢いらっしゃるので、普通に使っている私が特に書けるようなことは・・・、あ、FEPの厚みと張り方で出力結果が結構変わりますよー、ぐらいですかね。(自己責任になりますので詳しくは割愛しますが)

完成品について

部品の出力に成功したら、あとは楽しく組み立てるだけです。

サポートの除去と表面仕上げは、既存のプラモデルよりも煩雑で面倒ですが、特に私の場合極力部品を分割しないで、マシニングで削りだしたものと同様の形状で出力することがほとんどなので、射出成型のプラモデルのような接着による貼り合わせがほとんどありません。

1/3スケールの場合はほとんどがビスやボルトを用いて組み立てるので、組み立てそのものには時間があまり掛らないのです。

そのかわり、と言って良いのかどうかですが、造形痕を消したり可動部分の擦り合わせの手間と時間は結構かかります。

初めて出力品を組み立てたときにはガレージキットとあまり変わらないなーという感想でした。

今は出力品をそれなりに仕上げて完成品として販売しておりますが、今後は出力しっぱなしの部品を販売することを考えております。

レジンの性状が良くなってきたので、かなり切ったり削ったりがし易くなってきたことが理由ですが、正直、銃の種類が増えてくると私一人で作れる完成品の数にも限界があります。
老眼も進んできて厳しいですし。

塗装に凝ったり、オリジナルの仕様に改造したりしたものを、組んだモデラーさんの名前で販売してもらえたら、ユーザーさんの選択肢も増えて大変よろしいのではないかと思っています。

おわりに

そんなに売れるのなら射出成型で作ればいいじゃん?じゃんじゃん作って安くばら撒いたら?というご意見を頂きます。

それが出来たらどんなに素晴らしいかとも思いますが、それはきっと失敗に終わります。

かつて1/3スケールの銃器をプラモデルとして販売したメーカーがあったようですが、M16、AR、M4系の多彩なラインナップを作ったものの、短期間でそれら製品の販売は終わってしまいました。

射出成型の金型の作成には非常にコストがかかりますが、1つの製品を何万個と売るのであればもっとも合理的な生産方法です。

しかし、少し仕様や装備を変える度に新しい金型を作る必要があるため、そのコストを回収するためにバリエーション数×利益の出る販売数という膨大な数の製品が消費されなくてはならなくなります。

果たしてそこまでの市場があるでしょうか? 答えはNOです。

特に銃器については、個々人で好みが異なることが多く、求められる銃器の種類は相当数になりますが、その一つ一つの販売数はせいぜい数百から数千が限度になるでしょう。

したがって射出成型による大量生産では採算は合わないわけです。

一方で3Dプリンタによる生産であれば、金型は必要ではなく、仕様変更も自由自在、市場のニーズに応じた生産数に留められる、製品開発のリードタイムも短いなどなど、少量生産については圧倒的に有利となります。

現在では1商品あたりの単価は射出成型による大量生産と比較してかなり高くなりますが、価格に見合うクオリティーを維持し、顧客ニーズに応じたカスタマイズなどで付加価値をつけることで一定の販売数は見込めることは、私が今までやってきて手応えとして確かにあります。

銃の模型を作っている理由の最後に「やってて楽しい」と書きましたが、何をやってて楽しいのか、については、3Dプリンタを用いたビジネスモデルの構築、とりわけB to Cがどの程度の規模で実現できるのかについての実験だったりするのです。

個人商店レベルで顧客の特殊なニーズに即対応ができてしかもリーズナブル。
これからのあらゆるモノづくりのあるべき姿の片鱗を垣間見ているようで楽しいではないですか。

興味を持たれた個人投資家、企業さまがいらっしゃいましたら、じっくりとお話をさせていただきますのでお気軽にお声掛けくださいませ。(笑)

著者名:SAIMECS(永田)
可能性があればなんでも創ったり造ったり作ったりしています。大きな機械から小さな模型まで、依頼のあるまま気の向くまま。最近ドールの小物も作り始めてこのツイッターなんて始めてみたり。作っているモノのご紹介したり皆さんの欲しいものなんかを知れたら良いなぁ…と。お手柔らかに宜しくです。
【Foretホームページ】http://steampunk-foret.com/
Twitter ID: @gallery_jo
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